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2020.1.21
九州民家大学 シリーズ2 建築環境学入門⑤

1月18、19日に5回目の九州民家大学に参加してきました。
いよいよ本題となる「エクセルギー」についての講義ですが、やはりなかなか難しい…
まずは前回からのおさらいで、放射には「温」放射もあれば「冷」放射もあり(建築内外空間の長波長放射の温度レンジは-20℃から60℃)、それらの現象を定量化できる概念としてエクセルギーがあること、断熱・遮熱性能をあげることの第一義は暖冷房用の化石燃料の無駄を省くことよりも、室内環境の快適性を向上させることが主目的だという導入でした。われわれにも切実な事件である建築物省エネルギー法は、あくまでも「省エネ」が目的です。

エネルギーの基本的な性質は「保存される」ことにあります。ですから入った量と出た量は全体で変化しない、つまり「消費されない」ということです(熱力学第一法則)。一方でエクセルギーは、エネルギーの持つ価値(有用性、資源性)と消費とを定量化できる重要な概念です。例えばわれわれが日用品などの買い物をする際、必ずその量と質を天秤にかけながらお財布の紐を緩めます。語弊を恐れずにいえば、量の大小だけ考えてお財布からどんどんお金を出す状況が「エネルギー」概念だけでモノを考えた場合、量と質の両方からしっかり家計を考えた上で―量と質が数字でわかる―お金を出せるのが「エクセルギー」概念で判断できる重要なポイントだと思います。

では、エクセルギーの「消費」とはなんだろうかと考えると、そのひとつは周囲からの「放射の吸収」だと言えます。例えば、窓から入る太陽の光はエネルギーも大きく温度の高い短波長放射ですが、ガラスを通って室内に入り、床や壁にあたってそれらの分子を動かすと長波長放射に変化します。つまりある温度に応じて、ガラスや壁などがその「放射を吸収」することにより光の波長が変わることで「消費」されるのです。極端に言うと、放射により温度差が生じる状況そのものが消費なのかもしれません。エクセルギー概念はこれを数値化、定量化できることに大きな特徴があります。

二日目の19日は、「エントロピー」という概念について。熱力学第二法則、エントロピー増大の法則というヤツです。定義としては、「拡散を表す量」がエントロピーで「拡散を引き起こす能力」がエクセルギーとされます。拡散のイメージがよく掴めておらず、正直にいうとはっきり理解できていないのですが(苦笑)、自身の整理のために備忘録的に書くとすると以下のようになるかと思います。

物体の温度を上げる方法には、「加熱」と「仕事による摩擦」があります。例えば、やかんに水をいれてコンロでお湯を沸かそうとします。しばらくするとやかんの蓋がカタカタ鳴り、口から水蒸気が出ていきます。また、机の上に置いたマナーモードのスマホに電話がかかると、スマホの振動が机との摩擦によって熱に変わりながらスマホ自体も机の上を動きます。やかんのお湯は放っておけば室温に戻りますが、そのまま放置しつづけても、出ていった水蒸気が再びやかんに戻って水になり、蓋がカタカタ鳴ってお湯になることはありませんし、机の上のスマホも、机が勝手に摩擦を起こしてスマホを振動させることはありません。どちらも一方通行の現象です。
この「不可逆性」という概念が拡散と大きく関わるのですが、やかんにおける蓋のカタカタや水蒸気の放出、摩擦によってスマホが机上を動く(振動する)ことそのものを、仕事が熱に変わることによる「拡散」つまりエントロピーと呼び、エクセルギーと同じく定量化できるものだと理解しています(いまのところ…)。教科書的には、エントロピーが増大するとエクセルギーの減少量も増大するとされるようです。なんとなくわかるようでわからないような…

講義の最後には、動力はどのようにつくられるのかという問題を、流れ・循環や持続可能性とは何かという視点でご説明戴きました。昨今、耳馴染みの良い「持続可能性」ですが、実はその定義を曖昧にしか理解していなかったなと気付かされました。先生が提示された持続可能性の4条件は、
1.熱源があること
2.作業物質が封じ込まれていること
3.冷源があること
4.循環ポンプがあること
ですが、これは決して動力機関についてのみ当てはまるものではなく、様々に翻訳可能だと思います。先生が挙げられた例で腑に落ちたのは、人の身体についての以下のような翻訳です。
1.熱源があること⇒食物を食べる・飲むこと
2.作業物質が封じ込まれていること⇒酸素や栄養(血液)を運ぶ血管
3.冷源があること⇒宇宙を含めた周囲の空間
4.循環ポンプがあること⇒心臓

この4条件を建築に当てはめて適切な言葉を探し出していかなければならないなと、パンク寸前のアタマで考えた次第です…

今回も思いがけず長くなってしまいました。
最後までお読み戴き、ありがとうございます。