「衣食住」と生活の基本をまとめた言葉があります。肌になじむ服を着る、使い慣れた道具で料理を作る…。日本の伝統的な木組みの構法は、建物が負担する力の流れを考慮して住まいをひとつの大きな空間として造るのに適しています。内部は適度に間仕切っても、住み継ぐ中で広い空間に変えるのは易しい。そんな柔軟でのびやかな、何気ない暮らしを包む “おおまかな” 囲いの中に、そこに住む人の記憶の重なりを委ねたいなと考えています。
伝統的な構法で造ることで台風や地震など自然の驚異にそなえるのは、日本の複雑な気候にも適します。木や土壁は湿度を調節し熱を蓄えるため、エアコンに頼らない温熱方式とも相性が良いのです。同じ服でも化学繊維よりは綿や麻を、同じ食でもファストフードよりは簡単な手料理を…。同じ家であっても、工業化されたものではなく伝統的な構法と設計とによって、単なる生活の容器から暮らしぶりを支える親密な “木の囲い” になるのだと思います。
暮らしのディテールを、本質を忘れることなく、丁寧に造っていくことを理念に。
宮本 啓