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2020.2.27
九州民家大学 シリーズ2 建築環境学入門⑥

2月15,16日で、カリキュラムとしては最後の九州民家大学に参加してきました。
「水飲み鳥」をご存知でしょうか?水を入れたコップに、ある一定のサイクルでお辞儀をしながら嘴をつけて、まるで水を飲んでいるように動くおもちゃです。お尻にはエーテル液(可燃性の液体、水よりも揮発性が大きい)が入っています。
まずは前回のおさらいとして、その水飲み鳥の動きから見るエクセルギー収支についてのお話しから。

 水飲み鳥
(画像出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/水飲み鳥)

フェルト生地でできた頭部(嘴を含む)を一度水で濡らすと、蒸発によってその部分が冷やされます。そうすると、頭部とお尻をつなぐ細い筒内の気圧が下がり、お尻の中のエーテル液がどんどん頭部のフェルト生地に吸収されます。つまり頭部が重くなって重心位置が上がってしまいますので、あるところまで吸い上げてしまうと水飲み鳥はお辞儀をして嘴がコップの水に浸ります。お辞儀をした状態では、筒内とお尻部分のエーテル液で満たされていない空間(蒸気が溜まっている空間)がつながりますので、両方の空間の気圧差がなくなります。その結果、エーテル液は重力によって全て落下して再びお尻に溜まり、水飲み鳥は元の位置に戻ります。

この現象での熱の流れのひとつめは、濡れた頭部が蒸発によって温度が下がることです。またお尻の、蒸気が溜まっている空間の気圧は、筒内に入っているエーテル液の圧力より高いため、液体をいっそう頭部へ押し上げます。そうすると、蒸気が溜まっている空間の方は膨張して若干温度が下がることになり、その分周辺の環境から少しだけ熱が入ってきます。これがふたつめの熱の流れです。
つまり、頭部が「冷源」となり周辺の環境が「熱源」となってそこに熱の流れが生まれ、お辞儀をするという「動力」が取り出されます。動力は、温度差がある=熱の流れがあれば、その流れの中からつくられます。

そしてエクセルギー収支ですが、冷源(頭部)の「エクセルギー」は①濡れた頭部の「湿エクセルギー」の蒸発による消費で産み出され、②その頭部の「冷エクセルギー」から、エーテル液を吸い上げる仕事+お尻から少しだけ出る「冷エクセルギー」消費を差し引くことにより、動力(お辞儀)が産み出されるという2段階になります。

エクセルギー」「湿エクセルギー」があるということは…「エクセルギー」「エクセルギー」もあるということでしょうか?…はい、そうなんです。
2日目は、そのあたりのことをもっと詳しく講義いただきました。先生は説明されませんでしたが、これまでの講義は、熱としてのエネルギーの移動=「熱拡散」が大きなテーマだったかと思いますが、「湿り気」あるいは「湿度」という概念が加わると、水が水蒸気になって空気中に拡散していくような「物質拡散」をも伴うということになります(たぶん…)。ですからそれぞれ性質の異なる「湿・乾」エクセルギーなどの概念は、実際にわれわれが生活する熱環境の評価をとても豊かにしてくれるものだと感じました。ま、単純に科学的な好奇心を刺激されるという意味合いもかなり強いのですが…

もうひとつ重要な話として、「人体エクセルギー消費速さと室内環境」についての講義がありました。
当然ながら、われわれの身体もエクセルギーを「消費」しています。その消費の4成分は、
1.呼吸
2.体深と皮膚間の伝熱
3.皮膚と衣服の伝導
4.周囲からの放射の吸収
となります。どういうことかというと、人体のエクセルギー消費速さと日常的に変動する周辺環境からの放射エクセルギーとの相関を考慮すれば、熱的な快適性を実現するための知見が得られる(と僕は受け取っていますが…)ということです。例えば冬、ある条件下で周壁面温度を汗をかくかどうかのところまで上げれば、人体にとって快適であることが読み取れます。つまり、汗の蒸発という熱収支や室内の湿り具合を、さきほどの「湿・乾」のエクセルギーで評価できるということですから、通常の伝熱計算には乗らない評価軸を獲得できるわけです。これはとてもおもしろく、総合的に室内環境を評価する上で非常に大事なことだと感じました。

やはり、今回も長くなってしまいました(苦笑)
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

追記)
今回の参加者のみなさんはとても積極的で、「このままでは卒業できない!」と補講を志願するという稀有な状況が生まれたようです(苦笑)。よって宿谷先生に日程を調整いただき、3月28,29日にナント補講が実現しました。また参加してきます!